盗難防止を目的として開発された「AlterLock」は、IoT(Things of Internet)技術を活用したデバイスです。
最新モデルとなるAlterLock Gen3が採用している通信方式「LTE-M」は、他の通信技術と比べてどのように優れているのでしょうか?
この記事では、LTE-Mの技術的な特長と利点、他のIoT向け通信規格との比較、そしてなぜAlterLockがLTE-Mを通信方式を採用しているのかについて詳しく解説します。
LTE-Mとは?
スマートフォンなどの通信で一般的に利用されている通信規格がLTEや5Gと呼ばれているものです。
LTE-Mは、その中でも世界的にも広く普及しているLTE(Long Term Evolution)技術を基盤に開発された低消費電力広域ネットワーク(LPWA)のひとつです。正式名称は「LTE Cat-M1」といい、LTEの中で低消費電力かつ広範囲での通信を可能にするよう設計されており、特にIoTデバイスに最適化された通信方式です。膨大な数のデバイスがインターネットに接続されるIoTの時代において、デバイスの消費電力を抑えつつ広範囲での通信を実現するために開発されました。
設計背景
LTE-Mは、既存のモバイル通信インフラを利用して、遠隔地にある多数のデバイスとの通信を実現することを目的にしています。
この技術は、主に電力消費を最小限に抑えつつ、必要なデータを確実に送信するために設計されました。これにより、スマートメーター、医療機器、トラッキングデバイスなど、さまざまなIoT機器で活用されています。
LTE-Mの特長とメリット
省電力性
LTE-Mの最も大きな特長の一つは、その省電力性です。通常のLTE通信は、データの送受信に多くの電力を消費しますが、LTE-Mは低消費電力モードを利用して、デバイスのバッテリー寿命を延ばすように設計されています。
具体的には、PSM(Power Saving Mode)やeDRX(extended Discontinuous Reception)といった技術により、デバイスが使わない時間に長く深いスリープ状態に入り、周期的に通信を行うことが可能です。
また、通信モジュールの消費電力が低く抑えられているため、盗難防止デバイスやスマートメーターなどで電源の無い環境でも長期間稼働し続ける必要があるデバイスに最適な選択肢となります。
広域カバレッジ
もう一つの大きなメリットは、広域カバレッジです。LTE-Mは、LTEネットワークを利用するため、既存のモバイル通信インフラを活用して広範囲での通信が可能です。これにより、建物内や地下といった従来のIoT向けの通信方式では通信が困難な場所でも、安定した通信を確保できます。
移動中のデバイスや遠隔地に設置されたデバイスでも問題なく通信が行えるため、IoTデバイスに最適です。
既存のモバイル通信インフラを利用できるようになったとはいえ、当初からLTEと同じエリアで通信できたわけではありません。基地局のアップデートが必要で、利用可能なエリアは限られており、対応するプロバイダーも少なかったのです。しかし現在では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが国内全域でLTEと同等のエリアをカバーしており、そのため商用利用が急速に広がっています。
データ通信速度と信頼性
LTE-Mは、IoTデバイスに最適化されたデータ通信速度と高い信頼性を兼ね備えています。
通常のLTEに比べて通信速度は低いものの、定期的にセンサーデータを送信したり、位置情報を送信するようなIoTデバイスには必要十分な速度を提供します。また、通信の信頼性も非常に高く、データの損失や遅延を最小限に抑えられる方式になっています。
低コスト
LTE-Mは運用コストの面でも優れています。LTEなどのセルラー通信モジュールと比較して、通信モジュールの価格も大幅に抑えられています。
また、IoTを前提とした通信量の少ないプランを選択することで、通信コストの点でも経済的です。
LTEとの違い
LTEとLTE-Mは、どちらも4G通信技術の一種ですが、用途や性能に違いがあります。
LTEは高速通信を目指して設計されており、主にスマートフォンやタブレットなどの高帯域幅を必要とするデバイス向けです。最大1Gbpsのデータ転送速度を実現し、音声通話(VoLTE)や大容量データのストリーミングなどに最適です。
一方、LTE-MはLTEの周波数帯域の一部を使用する形でIoTデバイス向けに最適化された低消費電力通信規格です。データ転送速度は1Mbps程度と低速ですが、低消費電力で広範囲のカバレッジを提供します。
5Gの普及とLTEの役割
5Gは、LTEを大幅に上回る性能を持ちます。最大数十Gbpsの通信速度を誇り、遅延も1ミリ秒程度とされており、大量のデバイスを同時接続できることが特徴です。都市部を中心に普及が進み、スマートフォンでの利用はもちろん、AR/VR、スマートシティ、自動運転車など新たなアプリケーションに活用されます。高周波帯域が含まれているため、障害物に弱く、電波の到達距離が短いため、多数の基地局が必要になるという特徴もあります。
5G普及後のLTEの役割としては、依然として重要な通信インフラの一部として機能します。5Gよりも広い通信エリアをカバーできる特性からLTEがバックアップや補完的な役割を果たします。また、IoTデバイス向けには、低消費電力と広いエリアカバレッジを持つLTE-Mが引き続き活躍するため、5Gと併存しながら、特定の用途に最適な通信技術として活用され続けます。
LTE-Mの活用事例
- 物流・資産トラッキング
LTE-Mは、トラックや貨物の位置情報を追跡するために使われています。低消費電力で長期間動作するため、バッテリー駆動のトラッキングデバイスに適しています。これにより、長距離の物流管理や高価な資産の追跡を効率的に行えます。 - スマートメーター
電力、ガス、水道メーターなどのインフラモニタリングにもLTE-Mが利用されています。スマートメーターは定期的にメータのデータを送信し、遠隔地からの監視や管理を可能にします。通信量が少ないため、低コストで運用でき、バッテリー寿命も長くなります。 - ヘルスケアデバイス
ウェアラブルデバイスや遠隔でのモニタリングデバイスにも使われています。各種センサーで計測した心拍数や血糖値などのバイタルデータを定期的に送信し、健康状態を遠隔で管理できるようになります。 - 盗難防止システム
加速度センサーなどと組み合わせることで盗難時にアラートを送信したり、位置情報を送信することができます。省電力で長期間動作できるため、高価な資産を見守る手段として活用されています。
他のLPWAとの比較
主要なLPWA規格について、各スペックを比較してみましょう。対応地域は通信プロバイダーによって異なるため、あくまで参考として捉えてください。
規格 | 帯域幅 | 通信速度 | 消費電力 | ハンドオーバー | 主要な対応地域 | モジュール価格 |
---|---|---|---|---|---|---|
LTE-M | 1.08 MHz | 1 Mbps | 中 | あり | 日本、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、韓国、台湾など | 高 |
NB-IoT | 200 kHz | 250 kbps | 中 | なし | ヨーロッパ、ロシア、中国、インド、韓国、台湾、東南アジアなど | 中 |
LoRa | 125 – 500 kHz | 10 – 50 kbps | 低 | なし | 独自ネットワーク(国や地域ごとに異なる) | 低 |
Sigfox | 100 Hz | 100 bps | 低 | なし | 日本、ヨーロッパ(国ごとにカバレッジが異なる) | 低 |
※参考:LTE-MとNB-IoTの対応エリア(https://www.gsma.com/solutions-and-impact/technologies/internet-of-things/deployment-map)
この比較からわかること
- LTE-M は高速な通信が可能で、移動中の通信(ハンドオーバー)にも対応していますが、モジュールコストがやや高めです。主に、広範囲で信頼性の高い通信が求められるアプリケーションに適しています。
- NB-IoT は消費電力が低く、通信速度も適度で、静止したIoTデバイスに向いています。対応地域も広いですが、国や地域によってはまだ制約があります。
- LoRa は長距離通信が可能で、低消費電力が求められるアプリケーションに適しています。ただし、独自のネットワーク構築が必要な場合があります。
- Sigfox は通信距離が長く、非常に低消費電力ですが、通信速度とデータ容量に制限があります。広域のセンサー管理などに適しています。
LPWA規格の選定ポイント
対応地域
まず、デバイスが使用される地域に対応しているかを確認することが重要です。LTE-Mは、国内では4Gの対応エリアをほぼカバーしており、利用しやすい通信方式です。
NB-IoTも同様に考えられますが、特に海外での利用を検討する際は、その国での展開状況をしっかり確認する必要があります。現時点では一部の地域でしか利用できない可能性があり、対応状況は通信プロバイダーによって異なるため注意が必要です。また、LTE-MとNB-IoTは似た技術ですが、両方に対応している国もあれば、片方のみが利用可能な国もあります。一般的に、LTE-Mの方が対応地域が広いとされていますが、ヨーロッパでも一部の国では対応していないことがあります。両方の規格に対応したコンボモジュールも多く存在するため、国ごとに通信方式を切り替えることも選択肢の一つです。
LoRaは、既存の4G基地局が届かない山間部など特定の地域での利用を考える場合に適しています。LoRaは国際的なオープン規格ですが、全国的にカバーするプロバイダーは存在しないため、独自にゲートウェイを設置してネットワークを構築するか、既存のネットワークを持つ通信事業者のサービスを利用する必要があります。
Sigfoxは、国内で非常に高い人口カバー率を誇り、通信距離も長いため、広範囲にわたるサービスに適しています。通信エリア外の場所については、レンタル基地局を用いて通信範囲を拡張することも可能です。Sigfoxは世界中の多くの地域で利用可能ですが、国ごとにRC1からRC6までのエリア分けがされており、単一のモジュールで全ての地域に対応するのは難しい点に注意が必要です。
通信データ量と通信頻度
デバイスの用途に応じて、通信データ量や通信頻度を正確に見積もることが求められます。これらは通信コストに直接影響するため、余裕を持って試算することが重要です。一般的に、スマートフォン契約のようにギガバイト単位ではなく、キロバイト単位で料金が設定されます。Sigfoxは低コストで利用できますが、1回あたりの送信データ量が12バイト、1日あたりの通信回数が140回までと制限があるため、用途に応じた選定が必要です。
消費電力
バッテリーで長期間稼働させるIoTデバイスでは、消費電力が重要な検討事項となります。電波を送受信する際に最も多くの電力が消費されるため、常に通信可能な待機状態を維持するには大きなエネルギーが必要です。そのため、通信を間欠的に行う方式を検討する必要があります。こうした場合、通信モジュールの通信時の消費電力だけでなく、1回の通信にかかる時間や、スリープ時の消費電力も考慮する必要があります。
通信速度
通信速度に関しては、LTE-Mがスペック上で圧倒的に優位に見えるかもしれません。しかし、データ量の小さなセンサーデータを間欠的に送信するようなIoT機器においては、理論上の最大通信速度が実際の運用において大きな影響を与えるとは限りません。データを間欠的に送信する場合、通信帯域をスキャンして基地局を発見し、接続してデータ送信を開始するまでの時間が長くなることがあります。その結果、通信モジュールの動作時間が長くなり、全体の消費電力に影響することになります。
AlterLockにおけるLTE-Mの実装
ここではLTE-Mの採用事例として、盗難対策IoTデバイスであるオルターロックがLTE-Mを採用した理由についてご紹介します。
AlterLockは、ロードバイクやオートバイクなどの盗難防止を目的としたIoTデバイスとして、LTE-Mを活用した通信機能を搭載しています。
ロックモードの際にバイクが異常な動きを検知した場合、Bluetoothの通信範囲外でもLTE-Mを通じて所有者に通知を送ることができます。また、異常がない場合でも定期的に通信し、位置情報を送信することで、車両の無事を確認できます。
LTE-Mを採用したワケ
AlterLock Gen3がLTE-Mを採用している理由は、この通信技術がデバイスの用途に非常に適しているからです。
特に、乗り物の盗難防止という観点からは、省電力で広い通信エリアを持つことが重要です。また、ユーザーの負担を軽減するために、低コストであることも必要です。さらに、LTE-Mはグローバルで通信エリアが拡大しており、将来性が高い点も選択の理由の一つです。
他にもLPWA通信技術は存在しますが、個別の基地局が必要だったり、通信エリアが限られていたり、コストは低くても通信速度が非常に遅いなどの課題があるため、AlterLockではLTE-Mが最適な選択肢となりました。
Sigfoxとの比較:AlterLock Gen1/Gen2からの進化
AlterLockの初期モデルであるGen1やGen2では、「Sigfox」という通信技術を採用していました。Sigfoxは非常に低消費電力で広い範囲をカバーするLPWA技術の一つで、IoTデバイスに適しており、世界中で商用利用が広がった先駆け的な通信規格です。
一方、現在のAlterLock Gen3では「LTE-M」を採用しています。SigfoxとLTE-Mの大きな違いは、双方向通信が可能かどうか、データ通信量、そして通信速度です。Sigfoxは基本的に単方向通信で、一度に送信できるデータ量が非常に限られていますが、LTE-Mは双方向通信が可能で、通信量にも制限がありません。これにより、GPS信号が受信できない場合でも、Wi-Fiアクセスポイントの情報などを多く送信することで、より精度の高い位置情報を提供できます。
省電力を優先して双方向通信は行いませんが、定期的な通信の際にデータを受信する仕組みも備えています。
さらに、LTE-Mは既存のLTEネットワークを利用するため、広範囲で安定した通信が可能です。Sigfoxと比べて、通信範囲や信号の強度が優れているため、市街地だけでなく、地下や建物内でも通信がより安定しています。
まとめ
LTE-Mは、IoTデバイス向けに設計された低消費電力で広範囲の通信が可能な技術であり、AlterLockの性能を最大限に引き出すための重要な要素です。この技術により、AlterLockは位置追跡やスマートフォンへの通知といった機能を省電力で実現し、長期間にわたって安心して利用できる盗難防止デバイスとして機能しています。
今後、さらに多くのIoTデバイスが登場する中で、LTE-Mはその中心的な役割を果たし続けるでしょう。AlterLockに採用されている通信技術「LTE-M」についての特徴や利点について、この記事を通じて理解できたのではないでしょうか。